昨年12月に政府が示した「資産運用立国実現プラン」は、国の資産運用に重点を置いた取り組みを提案しました。この中で、金融庁は資産運用業の改革を進め、特に企業型確定拠出年金(企業型DC)の運営管理機関に対するモニタリングを新たな施策として推進しています。
近年、金融庁の資産運用業へのモニタリングでは、仕組み債や外貨建て一時払い保険などが注目されています。しかし、これらの分野で行政処分や販売停止が行われるなど、多くの問題が浮き彫りになっています。
今回の運営管理機関に対するモニタリングでも、加入者の最善の利益を損なう不誠実な業務運営が露呈する可能性があります。これにより、より透明性の高い運営や顧客保護の強化が求められることでしょう。
政府の取り組みにより、資産運用業界の健全性が向上し、個人投資家や加入者の利益が守られることが期待されます。
金融庁が企業型確定拠出年金の運営管理機関を徹底モニタリング:高い信託報酬が焦点
厚生労働省と金融庁の共管下にある企業型確定拠出年金(DC)の運営管理機関に対する踏み込んだモニタリングが注目されています。2023年10月時点で223社が登録されている運営管理機関に対し、金融庁が加入者の最善の利益を損なわないかどうかを厳しく監視します。
企業型DCでは、従業員が老後資金として掛け金を毎月拠出し、その運用は従業員が自ら選んだ金融商品によって行われます。その商品選定を担うのが運営管理機関です。しかし、過去の調査では、商品選定において加入者の利益を損なう不誠実な業務運営が見受けられるとされています。
特に注目されているのが、投資信託の高い信託報酬です。一般的な公募投信の信託報酬は0.05%台にまで下がっていますが、企業型DCの中には0.7~0.8%台の割高な商品が選定されている事例もあります。その原因の1つとして、運営管理機関が商品ラインナップの見直しを進めていないことが挙げられます。
企業年金連合会の実態調査によれば、2018年の制度改正にもかかわらず、除外(現金化)が行われずに割高な投信が選定され続けています。このため、信託報酬が安価な投信を導入しても、割高な投信が併存し続けています。
金融庁のモニタリングにより、このような課題が改善され、加入者の利益が守られることが期待されます。
企業型DCにおける投信の選定における信託報酬の高さと運営管理機関のビジネスモデルの歪み
企業型確定拠出年金(DC)では、運用会社が特定の投信を「DC専用商品」として提供し、運営管理機関がこれらの中から選定するのが一般的です。しかし、一部の運営管理機関は、DC専用商品の中から選定することで、企業型DCの信託報酬を壊したくない意図があるとされています。
大手金融機関が自社の運用子会社のDC専用商品を提供し、これを運営管理機関に勧めることで、割高な信託報酬や不十分な運用成績の投信が選定されるケースもあるようです。この背景には、運営管理機関の収益構造が関係しています。運営管理機関は導入企業からの「運営管理手数料」で収益を得ていますが、これだけでは事務コストを補填できず、投信の販売会社としての収益を確保するために割高な信託報酬の投信を選定することがあるとされています。
金融庁は、このような運営管理機関の収益構造やビジネスモデルの歪みによって加入者の利益が損なわれていないかを分析し、業界全体の重要課題を把握した上で、個別の監督を行う構えです。また、金融グループの取引関係による商品ラインナップの偏りなどもモニタリングの重要な項目として挙げられています。
金融庁のモニタリングが浮き彫りにした資産運用業界の課題と企業型DCの変革
金融庁の資産運用業界へのモニタリングでは、さまざまな問題が浮き彫りにされています。
例えば、仕組み債や外貨建て一時払い保険の販売において、業務改善命令が発出されたり、地銀の証券子会社の赤字が増加したりするなど、業界全体での動きが見られています。
次に注目されるのは、企業型DCの運営管理機関に対するモニタリングです。運営管理機関の変更が記録関連業務に影響を与える可能性や、導入企業が運営管理機関を変更できない課題などが指摘されています。
しかし、金融庁のモニタリングを待たずに、企業型DCの自主的な変革の動きも出始めています。例えば、日立グループでは選定商品の見直しを行い、低廉な信託報酬の投信を重視するなど、加入者の利益を考慮した改革が行われています。
特に注目すべきは、元本確保型商品の比率を減らし、加入者の運用をより多様化する動きです。これにより、加入者の運用比率が均等化され、よりリスクを考慮した運用が進められることが期待されています。
企業型DCにおける信託報酬の引き下げと金融庁のモニタリングの意義
企業型DCでは、信託報酬の価格破壊の波が始まっています。設定時期によって信託報酬が異なる「一物多価」の問題も浮き彫りになっており、業界ではこれに対する対策が求められています。
その中で、三菱UFJアセットマネジメントや北國銀行などが、過去に設定したDC専用パッシブ商品の信託報酬を引き下げる動きを見せています。特に、業界最低水準の信託報酬で高い支持を集める「eMAXIS Slimシリーズ」が、企業型DC商品として取り扱われるようになることで、今後の広がりが期待されています。
一方で、企業年金をめぐる議論も進んでおり、アセットオーナー・プリンシプルの公表や運用成果の「見える化」の議論が行われています。これらの取り組みの一環として、金融庁のモニタリングも動き出しています。
現在、企業型DCの加入者は800万人を超え、今後も増加する見込みです。金融庁のモニタリングは、金融機関の投信販売などの分析を通じて得られる知見を活用し、加入者の利益につなげることが期待されています。野村証券の鈴井浩史氏も、「加入者の最善の利益を図るうえで金融庁のモニタリングには意義がある」と述べ、その重要性を強調しています。
企業型DCの商品選定やガバナンスのあり方が大きく変わろうとしている中、金融庁のモニタリングが業界の健全な発展に寄与することが期待されます。